コラム|Column

昨今、製造分野で外観検査の自動化が進んでいる。AI技術を活用した「AI外観検査」は、従来の外観検査装置よりも効率的且つ高品質な検査を実施できるのが特徴だ。様々な国・地域でAI外観検査は導入されているが、とりわけ中国では官民一体となって積極的に活用されている。

今回は特別企画第三弾として、日本企業の中国拠点でのAI外観検査事情について解説。AI外観検査の特徴から、日本企業が抱える課題、さらにはAI外観検査導入の成功事例まで網羅している。成功事例ではIIJ Global Solutions Chinaの高野政義(以下、高野)による、本案件が成功したポイントをご紹介。中国拠点の生産工程の品質向上を目指す、日本企業の責任者・担当者の方は必見の内容となっている。

高野政義

IIJ Global Solutions China Inc.
DX事業推進室長 兼 無錫分公司総経理

IT業界32年 内、中国とインドネシアに14年。前職のソフトバンク時代の2016年にAI事業の立上げを経験。現在はAI/IoTを活用した日系企業のDXをサポート。製造現場向けに、AIを活用した品質管理や省人化、IoTでの生産設備の予知保全や生産性分析なとのコンサルティング業務に従事。

なお、特別企画第一弾は中国市場に挑戦する日本企業の過去と今を、第二弾は中国市場で成功するために知っておきたい知識について解説している。今回の第三弾と併せて読むことで、中国市場での日本企業の在り方や戦い方のヒントを得られるのでおすすめだ。

各業界で導入が進んでいる「AI外観検査」とは?

外観検査とは製品の品質維持・保証を目的に、キズ・汚れ・異物混入などの有無を外観からチェックする工程。これまで目視などで実施されてきた外観検査だが、昨今ではAIを活用した「AI外観検査」があらゆる分野の製造工程で導入されている。まずはAI外観検査と従来の外観検査を比較しつつ、AI外観検査の強みを確認していく。

AI外観検査とそのほかの検査の違い

AI外観検査の特徴を確認するためにそのほかの外観検査と比較してみる。下記はAI外観検査とほかの外観検査の違いを簡易的にまとめた表である。

外観検査の種類 AI外観検査 外観検査(ルールベース) 外観検査(目視)
判定方法 単一もしくは複数のAI処理 既定のルール 目視
検査精度
検査における柔軟性
導入コスト 数百万円~ 数百万円~ 人件費に依存

表にある通り、従来の外観検査には2つの種類があり、作業員による目視で確認するものと、既定ルールを基に自動装置で検査するタイプがある。目視の外観検査は精度に欠けるが、検査員の経験値を活かした柔軟なチェックができる。一方で、ルールベースの外観検査は精度が一定なものの、設定によっては過検出が起きたり、ルール変更に手間が生じやすい。

AI外観検査についていえば、検査精度がルールベースと同水準で、目視よりも秀でている。また、機能単位で構築するモジュール設計であれば細かな設定変更なども容易で、ルールベースのような不自由さは感じさせない。

以上のように、AI外観検査は検査精度をルールベースの外観検査と同水準にしながらも、目視のように柔軟性も確保している“2種類の外観検査のハイブリット”のような存在といえるだろう。

中国拠点の外観検査におけるよくある課題

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中国では政府がAI活用による製造工程効率化を推進していることもあり、高い技術力を持ったAIベンダーも存在している。しかし、そういったローカルベンダーと日本企業及びその中国拠点が結びつくのは容易でなく、いまだにAIを活用した外観検査に踏み切れていない日本企業も多い。ここでは日本企業の中国拠点が抱えがちな課題についてまとめる。

目視の検品だと品質担保が難しい

目視による外観検査の場合は、検査のレベルは検査員のスキルやコンディションに大きく依存している。それがゆえに、製品の品質を一定に保ち続けることが難しく不良品を見落とし、まれにユーザの手元に不良品が届いてしまうことがある。パッケージの印字やラベルの貼り付け間違いなど些細なミスでも、品質に厳しいユーザからのクレームにつながりかねない上に、製品によっては政府や業界の定めるルール違反につながるリスクがある。

実際、AI外観検査ソリューションを展開しているIIJ Global Solutions Chinaにも、企業の責任者から「納品先企業からの品質向上の要望に対応するには、人による検査では限界があり、不良品率の低減の為にAIを活用したい」といった相談があった。外観検査の品質担保に関する課題は、ユーザの満足度や自社のブランディングにも直結してしまうことなのだ。

全量検査したいが抜き取り検査しかできない

「全量検査」とはすべての製品を検査する方法で、「抜き取り検査」はロットの中から一部を選んで検査するもの。生産量の多い消費財の場合は、コストの関係上抜き取り検査のみが用いられることも多い。

抜き取り検査は工数削減・コスト削減ができるものの、あくまで一部の検査に留まるため、不良品見逃しのリスクを避ける事はできない。信頼性・安全性を確保したいメーカーにとっては、不良品見逃しのリスクを低減するべくAI外観検査で全量検査を実施したいところだ。

納品時の受入検査を実施できず不良品が多発している

サプライヤーから部品・材料の納品後、実際に生産ラインに乗せる前の「受入検査」を実施できないことがある。受入検査の未実施による不良品の多発から、ユーザからの信頼を損なってしまうリスクも。仮にリソースの問題から受入検査ができない場合は、AI外観検査を導入して効率的に検品を進めるのがおすすめだ。

不良品の原因特定に時間がかかっている

外観検査で不良品を出してしまった結果、その原因となる“欠陥”を特定するまでに時間がかかってしまうことがある。属人的になっていることで細かなログがなく、原因特定するまでに時間を要するのだ。原因を特定しなければ生産再開の目途が立ちにくくなり、事業全体に悪影響を及ぼしかねない。リスクを低減するためにも、検査結果・判定履歴などを記録できるAI外観検査の導入は解決策の一つだろう。

中国拠点で「AI外観検査」を導入するメリット

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次に製造現場でAI外観検査を導入するメリットについて、日本企業の中国拠点の抱える課題解消に結びつけつつ解説する。

目視での不良品見落としの削減

目視での外観検査の最もよくあるミスの「不良品見落とし」は、AI外観検査の導入によって解消できる可能性がある。製品の表面・裏面など満遍なくAI技術で360度検査することで、不良品をもれなく検出できる。不良品がきっかけのクレーム、そして生産中止の可能性も低くできるだろう。

作業者ごとの熟練度に依存した“属人化”の解消

目視による外観検査では良くも悪くも検査の正確性が作業者の熟練度に依存していたが、AI外観検査ではシステムによって検査の品質が一定に保たれる。AI外観検査は品質向上だけでなく、属人化を解消し、健全な組織体制の構築にも一役買うのだ。

高速且つ安定した品質の担保

AI外観検査は基本的に高速且つ安定した品質を担保できる装置だ。これまで抜き取り検査だった現場でもAI外観検査による全量検査を実施することで、外観検査の高速化・安定化につながるだろう。

教育リソースの削減

目視での外観検査では、ベテラン作業員や管理者から新人作業員への教育が随時実施される。しかし、AI外観検査を導入することで、確認を行うための作業員は必要最低限の配置で済み、教育リソースの削減にもつながる。検査のための人員・時間・スキーム構築などが不要になり、そのほかの業務に割り振れるのは大きなメリットだ。

研究開発職の専門業務への専念

一部の企業では検査にあたる人的リソースが少ないことで、研究開発職が専門業務に加えて外観検査を兼務することがある。しかし、AI外観検査を導入すれば、専門職が本来の開発業務に専念できるだろう。自社の利益につながり、従業員の満足度も高まる。

中国拠点に導入するAI外観検査サービスの選び方

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AI外観検査のサービスはいくつかの企業が提供しているため、どれが自社の製造過程に適切なのか比較検討するのが大切だ。中国拠点においては以下の基準で選ぶと良いだろう。

AI技術基盤や機能で選ぶ

AI外観検査で活用される技術基盤は、基本的に画像認識や異常検知関連のものである。画像認識に特化した解析基盤の「CNN(畳み込みニューラルネットワーク)」や、深層学習モデルの構築を担う「Phoenix Vision / Eye」などが代表例だ。そのほか、自社で判定精度を高めたい場合はレポーティング機能もあると便利だ。自社の課題に合った技術・機能を備えたAI外観検査サービスを選ぼう。

導入・運用のしやすさで選ぶ

AI外観検査は導入・運用のしやすさで選ぶことも重要だ。導入が簡単であれば初期設定・AI学習時間・カメラ設置などの時間を短縮し、システム切り替え時の生産ラインの停止時間を最小限に抑えられる。また、専門知識に乏しくても導入・運用できるサービスもおすすめ。例えばノーコード・ローコードのAI外観検査サービスは、設定変更時などの手間を減らせるため現場担当者の負荷を軽減してくれる。

AI外観検査の導入手順と費用

なお、AI外観検査の導入は基本的に下記の手順で進めていく。

  1. 導入範囲の整理と費用の概算
  2. 導入サービス決定後、使用するAIモデル構築のデータ収集
  3. 検査現場への導入・運用

AI外観検査の導入はいきなり全面的に進めるのではなく、AIによる自動化が必須の検査部門から順次導入・運用することが多い。

その際に、自社で揃える必要のある機材なども整理し、全体の費用感を掴むのがおすすめだ。導入費用には機材費だけでなく、「PoC(Proof of Concept)」という「AI外観検査導入でどれほど効率化できるか検証」する概念実証のための費用(通常、数百万円~)なども掛かってくることは留意が必要だ。

コンサルティング力・サポート体制で選ぶ

AI外観検査サービスを選ぶ際、意外と大切なのが「委託先が導入・運用にあたってどれほどサポートしてくれるか?」という点である。特に中国では国家主導でAI外観検査の導入が進められているが、その支援を受けているローカルベンダーのサポート体制が必ずしも万全とは限らない。

そこで日本企業の中国拠点向けにサービスを展開している、IIJなどの日本企業の存在が頼りになる。「コンサルタントのように併走してくれる日本企業の担当者に“日本語”で相談し、安心して自社に適切なAI外観検査を導入・運用」できるのだ。

中国でのAI外観検査の導入事例

最後にAI外観検査の導入事例として、IIJの中国現地法人であるIIJ Global Solutions Chinaで展開中の「IIJ AI外観検査ソリューション」の事例を基に紹介する。AI外観検査の導入イメージの一助になれば幸いだ。

【顧客の抱える課題】

日本で多角的な事業を展開するA社は、中国拠点で生産している消費財の衛生商品の品質に課題を感じていた。外観検査において20人の品質検査員による目視での検査を実施しており、品質面が一定ではなく、不良品の見落としでユーザからクレームが入る事がある。

実際、これまで日本本社には消費者からのクレームが少なからず寄せられており、自社のブランディングにも悪影響を及ぼしていた。外観検査の技術的な向上及び、属人的な検査体制の改善が急務となっていた。

【IIJ Global Solutions Chinaからの提案とAI外観検査導入の効果】

A社のこの課題に対して、IIJ Global Solutions Chinaではまず営業担当が現地へ赴き、状況を直接確認することに。現場ではそもそも「不良品」の基準が曖昧なこともあり、「何がどのようになっていれば“不良品”なのか」のルールを明文化することから始まった。

一方で、中国現地のローカルベンダーの協力も得ながら、顧客のニーズに応える検査機器を完成させることにもこだわった。簡易型の試作機を利用したPoCを経て、万全な状態で中国拠点にAI外観検査を導入した。

高野の案件レポート!

IIJのAI外観検査を導入した現在、A社の中国拠点では様々な効果を実現できました。

  • 不良品の徹底的な除外と品質面の安定化
  • 品質検査員頼りの属人的外観検査からの脱却
  • ルールの明文化による健全な検査体制の構築
  • 外観検査における新人教育のコスト削減

本案件における成功のカギは、IIJ Global Solutions Chinaチームによる徹底したヒアリングとサポート体制があったからこそと考えています。具体的には・・・

  • 現場の状況を直接的に見聞き、顧客の課題の的確な吸い上げ
  • 不良品のルール構築や要件定義など基本的な部分でのコンサルティング
  • 課題解消のためのカスタマイズしたAI外観検査装置の構築

以上のように顧客の課題に対して寄り添い、解決に向けて着実に施策を実践したことが結果につながったと考えています。現在、A社との間では、検査結果後の袋詰め工程の自動化システムの導入も協議中です。案件中に築き上げた信頼を裏切らないように、引き続き課題に寄り添って最適なソリューションを構築・提供する所存です。

今回だけでなく、高野たちは現在も日本企業の中国拠点の課題に寄り添い、解決に向けて日々奔走してきた。例えば、ロボットアームの作業ミスのAIカメラ検出及び事故防止のソリューション導入や、およそ30mの完全自動生産設備のエラー監視システム提供の実績もある。いずれも顧客の課題解決のために寄り添い、最適なソリューションを構築・提供した好例といえる。

もし、自社の中国拠点における品質向上を検討しているのであれば、IIJのように課題に対して併走するプロフェッショナルに一度相談するのもおすすめだ。特にIIJはAI外観検査から自動化システムのエラー監視まであらゆる実績がある。課題解決のために専門性の高いコンサルティングやソリューション提供を約束する。

まとめ

今回は製造分野などで導入が進められているAI外観検査について、概要から実際の導入事例まで紹介した。記事中でも触れた通り、IIJ Global Solutions ChinaでもAI外観検査サービスを展開し、成果をあげている。

顧客ごとの課題に合わせて複数の高度な技術をカスタマイズし、最適なAI外観検査装置を提供できる。ルール構築といった基本的な作業から、技術的・組織的な課題解決の提案まで、幅広い工程を中国語だけでなく日本語でもサポートできるのも強みだ。もし、中国拠点でAI外観検査導入を検討する際は、IIJ Global Solutions Chinaにお気軽に問い合わせを。

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